yukiakiの日記

映画とサッカーと漫画と猫が好きな男の生存確認ブログ 週刊少年ジャンプの全漫画の感想を書いて14年目

映画『君たちはどう生きるか』感想(ネタバレあり)   観客を意識ぜずに自分の中のファンタジーを詰め込んだ宮崎駿監督の自分語りだと思った

異例の事前宣伝なしという作品公開だったので、自分もその意図に出来うる限り則りたいと、公開日に初日の夕方に時間を作って鑑賞しました。

観客は200人ほど。学生さんからお年寄りまで幅広い年代の人がいました。

 

 

まず考えたのは「これは確かに宣伝なしという方法が正解だったかもしれない」ということでした。

いちおうは一人の少年が異界への旅路を通じて成長する物語という体裁を取っていますが、内容はほとんど観客を意識していない(エンタメではない)、宮崎駿監督自身の自分語りでした。

ある種の自伝的同人誌という感じで、自らの内にこもるイメージを具現化することに全力を注いでいて、外向きは二の次、要は観客に「見てくれ」とは一切思っていないのではとすら感じました。

しかしだからこそ、自分のような宮崎駿監督ファンにとっては興味深く、また稀代の天才映像クリエイターの(おそらく)引退作としてこれが出てきた事には、驚きと納得があって面白かったです。

 

その中で一番自分が驚いた要素、惹かれた要素は、ラストの塔の中のイメージ世界が崩壊する場面でした。

作中の大叔父様が宇宙から降ってきた隕石を元に建立した塔は明らかに宮崎駿監督自身の空想や自身が撮った映画作品を表していて(数々の監督作品で見た事があるイメージやそれに似た舞台が出てくる、自分を生む前の綺麗な少女時代の母親もヒロイン的ポジションでいる等)、その世界の創造主である大叔父様はその世界を自分の血縁者である眞人くんに継がせようと、時代の塔を作るための積み木を託そうとします。しかしそれは眞人くんに拒否され、横にいたインコ大王が怒って勝手に積み木を組んだ結果、世界は崩壊します。

大叔父様自身が外から持ち込んだというインコ達(その関係性は宮崎駿監督のイメージを具現化するために必要だったスタッフ達を連想させた)、それは彼の世界で増殖し、ついには創造主たる大叔父様相手に自分たちが住みやすいよう世界を変えろと意見するまでに増長します。その筆頭であるインコ大王は憎たらしい奴ですが、同時に大叔父様とインコ大王が肩を並べて話す様はまるで友のようでもあり、そういった事からインコ大王は個人的にはジブリプロデューサーである鈴木敏夫さんの事をイメージしているのかなと思いました。

崩壊する世界、インコ大王では紡いで維持する事は適わない世界、後継者と目した人物には断られた世界、しかしその後継者に指名された眞人くんもまた宮崎駿監督自身の分身に自分は見えました。

それは「継ぐべき存在に継いで欲しいけど、そんな人物はいるわけがない」という諦観とある種の自分自身への自負、そして「まだまだもっと、永遠に自分自身の夢の世界を積み上げていきたい。けれどそれは叶わないんだ」という思いを感じて、映画の最後に自分は少し涙ぐんでしまいました。

 

もちろんこれは自分自身の勝手な解釈で、実際は全然違うのかもしれません。

しかし全くの事前情報がない中で自分から浮き上がってきた感情はそれであり「君たちはどう生きるか(どう感想を書くの?)」という映画のタイトルに対して「俺自身はそういう感想を持ったぜ、受け取ったぜ」というアンサーにしたいと思いました。

 

多くの解釈が可能な映画でしたし、色々な人の感想が見たいし聞きたい映画でした。

 

おそらく自分の残りの一生を持ってしても二度と体験できないであろう、とても貴重な映画体験ができて、本当に良かったです。