yukiakiの日記

映画とサッカーと漫画と猫が好きな男の生存確認ブログ 週刊少年ジャンプの全漫画の感想を書いて14年目

映画『すずめの戸締まり』感想(ネタバレあり) 『戸締まり』という負の感情を想起させる言葉をポジティブなものに変化させてみせた傑作映画

新海誠監督作品ならば見に行かねばならないと、公開日の夕方に鑑賞。観客は50人ほど。高校生など若い人が多い印象でした。

 

 

テレビでやった『冒頭〇分放送』以外は全く事前情報を仕入れずに観に行ったので、途中で『東日本大震災』を正面から扱っている作品だと気づいてからは、作品を楽しもうとする感性とは別に「それに向き合うだけの価値を示せるのだろうか?」という基準が加わった状態で鑑賞していました。

そして観終わってみれば……自分は泣いていました。

『戸締まり』という「何かを封印する、閉じ込める」「外界からの接触を断って引きこもる」という負の感情を連想させる言葉を、最終的に「その経験を忘れえぬものとして、だけどそれに囚われすぎることなく、家から日常通りに出かけるように、鍵をかけて『いってきます』と言って明日に向かって歩き出そう」というポジティブなものに変化してみせた今作は、『東日本震災』というテーマに本当に真摯に向き合ってみせた傑作だと感じました。

映画としての見所もたくさんありました。前半部のロードムービー的な要素はとてもほっこりできましたし、子ども用椅子に変化した草太さんおアグレッシブすぎる遊園地アクションは手に汗握りつつ笑いましたし、途中から急に出てきた芹澤さんのいい奴っぷりはこの映画の素晴らしき”癒し”でした。

あと、主人公のすずめちゃんが東京において東京100万人の命をとるか草太さんをとるか葛藤する場面は、普通の映画なら「そりゃあ東京100万人でしょ」ですが、新海監督の前作『天気の子』を観た後だと「まさか……こいつ本当に草太さんの方をとるんじゃないか……まあ100万人が本当に死ぬとは限らないし……でもまさか……」と相当ハラハラして見れたの面白い映画体験でした。他の監督ならここまで焦らないよ(笑)

一方で、黒塗りにされた日記から分かる絶望感や、芹澤の「ここってこんな綺麗なところだったんだな」という台詞から感じる被災者とそれ以外の断絶、お母さんを探す幼いすずめちゃんのきっとあの時同じ境遇の人がいたであろうと想像できる場面は、直接的な津波表現等がなかったとしても、しっかりと自分の深いところを締め付けてきて、自分自身も『東日本震災』をまだすべて消化できているわけではないということを突き付けられて辛かったです。だからこそ刺さった部分もありますが、純粋なエンターテインメント映画としては見ることが難しい作品でもあったと思いました。

とはいえ『ほしのこえ』を学生時代に初めて見て衝撃を受けてからの新海誠ファンの一人としては、しっかりと彼自身の「らしさ」が出たうえで「次のテーマへ、次のステージへ」と進化して歩んでいっているのが見て取れる映画で、感無量でした。