まおゆう魔王勇者 (1) 「この我のものとなれ、勇者よ」「断る!」
- 作者: 橙乃ままれ,toi8
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
- 発売日: 2010/12/29
- メディア: 単行本
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魔王と勇者が手を取り合って『丘の向こう』を目指す物語。
すっごく面白かったです。1巻ごとに時間を忘れてぐわーと読んで、その後それぞれのキャラクターの気持ちや決意に思いを馳せる、それを何回も繰り返して、ようやく最終刊まで読み終わりました。
元々がネット掲示板発のスクロールして読む文章であり、キャラクターの台詞のみで構成される戯曲のような文体なので、書籍形式で読むのは最初はとまどいましたが、慣れればどうということなく物語に没頭できました。…というよりも、ある意味そんな些末なことは気にならないくらい、読み応えのある物語でした。
最初は馬鈴薯(じゃがいも)を作るという地味な作業から始まり、それは食糧自給率の問題に発展し、そして段々とこの世界をとりまく大きな問題、奴隷の問題や宗教対立の問題、人間と魔族の異種族間のいがみあいの歴史にスポットが当たっていきます。世界を変えようとする意志は世界の秩序に反発され多くの困難が降りかかりますが、彼と彼女はその道の過程で多くの仲間を得て、もっとみんなが楽しく暮らせる未来、『丘の向こう』明日を目指して歩いて行きます。
僕は『まおゆう』はそういった多くのキャラクター達の決して諦めない物語であると同時に、今までの人間の歴史を肯定した人間賛歌の物語でもあると思いました。魔王と勇者が武器にしたのは、それぞれが持つ強力な力ではなく、ジャガイモ栽培や天然痘予防などの技術であったり、基本的人権や法律という新しい概念だったりします。それらは全て現実の人間が歴史のなかで苦しみながら手に入れてきたものです。
だからこそ、全てを読み終わって最初に思ったことは「明日のために僕に一体何ができるだろうか」でした。物語の中で登場人物達は確かに一つの丘を越えました。だけど、現実世界がそうであるように問題の全ては解決することはあり得ません。でもだけど彼らはきっと歩みを止めません。
「飛び立っていく鳥を留めることが出来ないように、わたしたちは明日を目指して飛び出していける」
僕たちもまた何かをしてみたくなる、そんな力強い魅力を持つ物語でした。