yukiakiの日記

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フランク ブレイディー『完全なるチェス―天才ボビー・フィッシャーの生涯』感想  天才は美しい、でも天才なんてなるものじゃないなあ

ハードカバー500P以上からなる長い本ですが、一気に読み終わりました。

完全なるチェス―天才ボビー・フィッシャーの生涯

完全なるチェス―天才ボビー・フィッシャーの生涯

本書はチェスの偉大なるチャンピオン、ボビー・フィッシャーの一生に向き合ったものですが、まずその取材力と、全体の読ませる力に圧倒されました。

僕はフィッシャーのことはぜんぜん知らなかったのですが(だから冒頭で彼が日本で捕まるシーンから始まるのは衝撃的だった)、そんな前知識のなどなくても、彼がいかに早い時期から天才であり、いかに問題児であるか、そしていかに素晴らしい功績を残したかが、分かり易く伝わってくるのが良かったです。

フィッシャーの成した偉大な功績はチェスだけでなく、まさに歴史を変えるもので、「すごい!」と絶賛すると同時に、僕は「天才なんてなるもんじゃないなあ」と思いました。

僕は「天才」というものにすごく興味があります。稀少なもの、理解できないもの、成り立ちにくいもの、だからこそ、それが目に見える結晶となって輝いたときには、何よりも美しいものだと思っています。

だからこそ当初は自分が天才になったつもりでフィッシャーに感情移入して読んでいったのですが、その読書体験は気持ちいいというよりも、彼が幼少期から才能を研ぎ澄ませていく過程での執着ぶりと周りからの圧力やプレッシャーは相当なもので、胃がきりきりとして大変でした。そのストレスは世界の頂点に挑戦していく過程で最大となり、とうとう自分を重ね合わせるのをギブアップしてしまいました。

僕自身では想像しきれない、想像するだけでまいってしまうほどの天才性、それは確かに美しいですが、だからこそ非常に不安定なものだったと思いました。

それはイメージするなら飛行機のようなもので、どこまでも遠くへ飛んでいけるかわりに、どこかネジが一本でも抜けていればなすすべもなく墜落するといったものです(でも普通の人は飛行機が落ちるなんて夢にも思わない)。順当にフライトするためには(個人の強靱な意志で)自分自身を整備することが求められるのだと思います。

フィッシャーがいかに自分を鍛え上げ、プレッシャーと闘い事を成したか分かっていると(特に途中までは感情移入して読んでいましたし)、晩年の没落ぶりは見ていてとても辛かったです。融通が少しでも効けば違ったのでしょうが、それができないのが彼だったのでしょう。それもまあ、魅力といえば魅力になりますが、幸せになるのに天才性は邪魔なのかなあとか、いろいろ考えさせられました。

「天才」に興味津々な人間としては、とても面白い本で、読めて大変良かったです。