yukiakiの日記

映画とサッカーと漫画と猫が好きな男の生存確認ブログ 週刊少年ジャンプの全漫画の感想を書いて14年目

本谷有希子『嵐のピクニック』感想 乱雑でめちゃくちゃな発想に浸れてナイストリップできた

嵐のピクニック

嵐のピクニック

「発想がスゴい」とか「ぶっとんでいる」とかそういうしっかりとしたベクトルではなく「乱雑で勢いいまかせただけだろう」とツッコミたくなるような四方八方めちゃくちゃな発想の短編集でした。
まさに嵐のピクニック。何が起こるかとんでくるかも分からないめちゃくちゃな状況の中を、優雅に「なんのこともないでしょ」と歩いていくようなトリップ感に浸れました。非常に面白かったです。


以下、13編ある短編のそれぞれの感想です。

アウトサイド
音楽の先生が、結果的に自身の音楽で食っていくことに挫折した者が多いという当たり前のことに、自分も子供の頃気がつかないで、生意気言っていたなと自身を振り返って反省する作品であった。ホラー調でしっかりオチもある。この頃はまだまとも。後半の話にいくにしたがい内容がカオスになる(笑)


私はなまえで
どんどん壊れていく女性上司に笑った。一人称視点ではあるが、本人はうまくごまかしたつもりでも、ぜったい周りにはバレているだろうなという、第三者視点を想像するのが面白かった。


パプリカ次郎
僕が会ったことのある本物の天才を思い出した。周りを巻き込まずにはいられない嵐のような強烈な個性。それをどうしても自分の中に取り込みたくてそれこそ「体中ノリまみれ」になってくっついていこうとしたが結局は無理だった。自分は自分で他人は他人。今はもう離れてしまったが、彼は元気でやっているのだろうか。


人間袋とじ
女の子は時にとっても強い。人間袋とじを作ってしまった彼女の精神構造に背筋が凍り、人間袋とじを開いた先にある彼女の心の決意を想像してまた背筋が凍った。女の強さは時にホラーだと僕は思う。


哀しみのウエストトレイニー
今回の短編集の中では一番好きな作品。
ボクシングの試合を生まれてはじめてちゃんと見た後で「次の日から、私はボディビルダーを目指した」で大爆笑。こういうユニークな思考のジャンプはとても心地が良い。ラストのオチも良かった。


マゴッチギャオの夜、いつも通り
不思議な話だが、この「動物が実は人間の知らない凄い力が使えたんだ」みたいなものはけっこうありふれた話だと思う。出てくる人間が不快なので印象はあまり良くなかった。


亡霊病
「亡霊病」はなにかの暗喩だとかいろいろ勘ぐらずに「この架空の病気こえーな(笑)」が一番楽しめる読み方だと思う。


タイフーン
良い意味で全く意味が分からない(笑)話。俺はこういうアホなテンションの話は嫌いではない。「バイビー!」という台詞の選びも秀逸だった。


Q&A
質問の回答者は最初はすごくまともな人かなと思わせておいて、だんだんとキャラが分かってくると、とてつもなく壊れた人だと分かって面白かった。しかし読者の質問コーナーの回答者はこれくらいキャラ確立してぶっ壊れていた方が、読者的には面白いというのは雑誌の真実。


彼女たち
一瞬前の話から「続くのかよ!」と思った。実際は続いてなかったけど。
この辺りからもう理屈とか考えなしにテンションで話を読むようになってきた。考えるより感じろ。でなければ地獄だ。


How to burden the girl
これはゴメンなさい。悪い意味で意味が分からなかったです。テンションで押し切る物語は、波長が合わないとただの電波小説にしか思えないというのは勉強できた。


ダウンズ&アップス
ちょうどジャンプネクストという雑誌の「グッドルーザー球磨川<完結編>」を読んだ後だったので、ここに出てくる語り部が球磨川くんをイメージして読んだ。
中身が空っぽの人間はもっともらしいことを色々言うのでそれに惑わされてはいけないと思う。ただここに巻き込まれた普通の人である彼が、相手の才能故にだんだんと自分がなくなり男のアンチであることが自分のキャラクターであるように錯覚していってしまったんだろうなというのは安易に想像できた。世の中には近付いちゃいけないタイプの人間もいるんだろうなと僕は思う。


いかにして私がピクニックシートをみるたび、くすりとしてしまうようになったか
僕が壁のしみみたいなものをみるたびに背筋がビクッとなってしまうようになったかというと、近くの工場の廃水パイプから流れた水が壁を伝わっていくつもの人の影みたいなしみを作っていたからだ。幼心にその横を通るのがいつも嫌だった。トラウマだ。笑えるトラウマが僕も欲しい。