yukiakiの日記

映画とサッカーとジャンプと猫が好きな男の生存確認ブログ

辻村深月『鍵のない夢を見る』感想 「夢をみる」ことと「現実から目を逸らす」ことは決定的に違うけれど、時折境界が曖昧になってしまうんだよなあ

鍵のない夢を見る

鍵のない夢を見る

第147回直木賞受賞の短編集。共通するテーマとしては夢と犯罪。
それぞれの物語で出てくる登場人物の「夢」も、それを評する主人公の女性達の目線も、どちらも滑稽なくらい「現実から目を逸らして、自分は違うと悦に入っている」だけで、「イタい、イタいよ……」と思いましたが、それを「イタい」と感じるだけ、他人事ではない部分があるということで、少し背筋が寒くなる小説でした。反面教師。


以下、各短編の感想。


「仁志野町の泥棒」
こちらははっきりと覚えているのに、相手はそんなこと微塵も覚えてないというのは、30近くなるとよくあることで、そのギャップに驚かされます。でもそれはショックよりも、僕は嬉しさの方が経験的には多いです。「ああ、相手はこんな風に自分を評価してたのか」とか「俺の後悔は一人相撲だったな」とか、若かった自分の考えていた世界の狭さや思いこみを突きつけられるのは、恥ずかしさよりも、いい意味での新たな発見という感じがします。


「石蕗南地区の放火」
この本の中で一番笑ったお話です。究極の一人相撲勘違い話。読み返すとなお面白い。
「劇的なもの」を自身が求めている自覚がないと、自分の周りのなんでもないことをさも劇的なもののように演出・錯覚してしまうというのは学生時代にはよくあったことだけれども、36歳の女性がそれであるのを見るのは正直言ってどん引きでした。


「美弥谷団地の逃亡者」
この本のなかでは一番よく分からなかった話。美衣ちゃんの気持ちは最後まで俺にはよく分からなかった。これは性別的なところなのかなとも思う。
女の人は時たま、男にはよく分からない部分で物事の辻褄を合わせているなと感じることがある。


「芹葉大学の殺人」
サッカーをやっていたからプロがいかに異次元な存在かは身をもって知っている。勉強もけっこう頑張ったから医学部がいかに自分以上に勉強しているかも分かる。
医学部に編入して将来の憂いをなくしサッカーのワールドカップにも出るんだ的なことを、工業大学在学の体育でしかサッカーをやっていない奴が言いきる馬鹿馬鹿しさを「夢を見るだけにも才能と努力が必要だ」と思ってしまった主人公の勘違いは、「本物」を身近で見たことがないという一点につきると思う。イライラして仕方がないが、その部分はおおいに不幸だと思う。
「夢をみる」ことと「現実から目を逸らす」ことは決定的に違うけれど、とてもよく似ている。その見分けがつかないのは、僕は本人の資質よりも、運と環境だと思うから、おおいにやるせない話だった。


「君本家の誘拐」
育児はお母さんの体調的な面も含めて本当に大変だと思う。それはいかに授かりたかったかという願いや初期衝動を吹き飛ばすほどに。だから僕はこの物語にはひじょうに同情的だった。
育児は経験豊富な家族の力を借りて、みんなでやった方が絶対にいいよなあやっぱり。