胸が締め付けられる感じがした。だがそれは感動ではない、あまりにやるせなかったからだ。
- 作者: 辻村深月
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/04/13
- メディア: 文庫
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この物語の主要人物の一人チエミは母を殺した殺人の容疑者として行方不明になっています。それを追う元親友の“みずほ”と彼女が尋ねる様々な人物の視点から浮かび上がってくるチエミは、どうしよもないくらい自分の意志で物事を決められない箱入り娘です。
僕は性別は違いますが、そこまで極端でないにしても、チエミや彼女の周りの女性達が持っている「どこへも行けない」という感情がよく分かります。地方の30歳前後の親の世代にはいまだに「地元で一つの企業にずっと勤めあげ、30迄に結婚して子どもを生んで家を建てて一人前」という価値観が色濃く残っています。それを基準とした同調圧力みたいなものも多いです。それと闘うのはとても大変だし、誰もがそんなに強いわけじゃありません。そもそも僕等はそういう親に育てられ、またその親の庇護がなければ特に女性などは日々の生活を過ごすことすらままならないのが実情です。
でも僕はだからこそ、「どこにも行けないだろう」と諦めてしまい周りに流されて、常に不平不満を口にするだけの人生、「自分の足で立つこと」を放棄することは間違っていると思うし、僕自身がそうなりたくないから、典型的な箱入り娘として描かれるチエミは、そうなってしまったことに同情することはあっても、はっきり言って大嫌いでした。
だから最終的にチエミの物語が、起こったことは仕方のないこととして、それでもなお美しい場所にたどり着いても、「そもそも彼女がもっと自分を持っていればどうにでもなっただろう」という思いが抜けきれませんでした。とにかく読んでいて腹立たしかった。
まあ、それだけ感情が揺さぶられる話ではあったわけですが…。う〜ん、やるせない…